鮭の子漫画

惰性の漫画と日記を書くの

闇遊戯王カードの密売してたら、タカラトミーに就職できなくなるよ

 小学六年から、カードの密造、密売をしていた。

 そんな狂ったことをしていたのは僕ではない。福士くんが、していたという話だ。転べば転がるような体型の福士くんであったが、この一件でますます肥える結果となる。大人になった今では土地を転がし、事業を回すようになったと噂が届いた。ここまで自分を貫く人間もそうそういない。むしろいないほうが、世界は上手く回っていた。

 事の始まりは、福士くんとその友人が学校に遊戯王カードを持ってきた愚行からだ。

 この時点で相当にクレイジー。誰がどう考えたって、教師に怒られる。没収される。最悪、親に電話がいく。百害あって一理なしとは、まさにこのこと。当時の僕らの感覚からすれば、窃盗と並ぶほどの事件を起こしたというセンセーショナルさがあった。

 福士くん一派の短絡的な犯行は、即刻教師に告げ口され、彼らは御用となった。しかし彼らのモチベーションは高かった。邪魔する者や障壁があってこそ、イノベーションは起こるというもので、それは歴史が証明している。

 彼らはまず、図工の授業で使うケント紙を裁断し、手作りの遊戯王カードを作った。絵が上手い者にイラストを発注し、雇用も生んでいた。

 手作りの品を、教室の隅で捲って遊ぶ福士くん一派を咎める教師は、運良くいなかった。

 しかし問題が起きた。野球部の奴らが、雑な手作り遊戯王カードを市場(六年一組)に流通させはじめた。その品質は劣悪。カードはちぐはぐな大きさで、裏側からでもどのカードか区別がついた。野球部のいたずらなんて無視を決め込めばいいものだが、福士くんの手下たちは野球部の偽造カードをこぞって欲した。現実では誰も所持していない、貴重で強力なカードが描かれていたからだ。

 揺らぐ福士くんの地位。彼は遊戯王カードで一番強いからこそ、グループ内での信頼も厚い。だからこそカードの製造枚数や種類も仕切ることができ、結果として秩序を保っていた。しかし、今で言うところの「ぶっ壊れ」を武器にし、手下どもが一揆を起こす。隣のグループで静観していた僕も、ヒヤヒヤした。没落する人間を観るのは、全裸監督だけで十分だ。

 窮地の福士くんは、消しゴム判子を彫り始めた。「福」の字を複雑にしたマークを、手作りの遊戯王カードに押印していく福士くん。その姿は、ダラダラと漢字ドリルを埋めている我々よりは、有意義なものに見えた。

 野球部が横流しする強力な偽カードにより、市場の混乱を実感し始めていた手下たち。そんなときに、「福」マークが押された、つまりは品質の保証がされた福士くんのカードが出回る。

 野球部のせいで、レアの概念が変わろうとしていて不安定で疑心暗鬼な情勢(六年一組)だったからこそ「福士くん印」は皆の精神安定剤となり普及し、「福」が押印されていないカードは使用不可となるまでに至った。これにより、野球部もちょっかいを出してこなくなった。めでたい話だ。

 しかし福士くんの閃きは、これで終わらない。福士くん印と同様に、発注しているカードイラストも、消しゴムに描いてもらえばいいのではないか。それを器用な者に掘らせれば、量産が簡単になる。

 まさに、産業革命。文明が開花した瞬間だった。

 量産が可能になったことで、市場は六年二組にも拡大した。学校で合法的にカードゲームができるという脱法行為の魅力が、多くの男子を惹きつける。

 果てにはシルクスクリーンを導入するに至った。同じ効果のカードでも、シルクスクリーン製は色艶やかで人気が高く、高値でトレードされるようになった。ここまでくると、完全な偽造だ。

 福士くんは欲望――いや、ビジネスをさらに拡大させた。六年三組で流行っていた「ギャザ」というカードゲームの効果を、遊戯王用にアレンジし、自作のカードを作り始めたのだ。今までは遊戯王を模造するだけだったが、独自路線を開拓した福士くん。結果、六年三組も巻き込む一大産業となり、下の学年や、従兄弟づてで他校へと広がった。

 福士くんが中学校へ上がる頃には、八王子市のカードゲーム市場において、完全な覇権を取っていた。

 中学生になった彼は、プレイヤーを兼業することもなくなり、製造元として時間にリソースを割くようになった。当時彼は、こう言っていた。

「お金に困っている大人の、意味が分からない」

 製造元である福士くんは、本当に潤っていた。十二歳そこそこで、その辺のサラリーマンより稼いでいたのだから、舐めた口をきいても仕方がない。

 僕は諸般の事情によりこの地を離れたため、その後に偽造遊戯王カードがどうなったのかは知らない。

 一説では、福士くん印の初期ロットは、今でも高値で取引されていると聞く。

 福士くん自身の情報も、噂レベルでは多岐にわたる。土地を転がしているという他にも、タカラトミーに入社したとか、パズドラを開発したとか、LEGO者に全面戦争を仕掛けたとか、様々だ。まあ、彼なら上手いこと生きているだろう。

 肥えすぎて転がり、人生が転落しないことを祈っている。

 

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おわりっ