鮭の子漫画

惰性の漫画と日記を書くの

米には七人の神様がいるってよ

 ぶっちょう面で、ブッチョと呼ばれている稲田くん。しゃべるときも無愛想でクラス内じゃ不人気だ。そんな彼に、僕は長々相談されたことがある。

 夏休みを怠惰に過ごす稲田くん宅に、甥っ子が遊びに来たそうだ。稲田ファミリーは、母方の婆ちゃん(離婚済みで作田)、稲田くんとその父母、嫁いだ姉(権田)で構成される。

 僕ら界隈でその三世代は「成り上がりの大百姓」と苗字にちなんで呼ばれている。残念ながら、稲田ファミリーで一次産業に携わる者はいない。

 婆ちゃんと甥っ子を含めると四世代。食卓は賑わったらしい。稲田くんはきっと、「自分が可愛がられていた立場なのに、急に甥っ子ばかり」と世の中に絶望していたことと思う。ぶっちょう面はむしろ般若になっていただろうが、これこそが人生の縮図。老いることのデメリットを早期に学べただけ、むしろ得している。

 そんな一族団らんの真ん中にいる甥っ子。まだ箸もおぼつかない年齢。甥っ子が食べ終わった茶碗には、たくさんの米粒ついている。子供らしくて微笑ましい光景だが、婆さんが言った。

「米1粒には、7人の神様がーーどうのこうの」

 甥は、はーいといって、米を一粒ずつ食べ始めたという。素直だ、僕はそう思った。この子のような素直さを持ち合わせた人間こそが、慶應幼稚舎に合格し、一流の国立大学に進学。官僚となり、両親に豪華な外食を振る舞って恩返しするわけだ。汚職事件を疑われ責任逃ればかりしているボンクラ政治家に、この子はならない。そこまで見えた。なんであれ、ポジティブな感情が皆に生まれた。

 空気を凍らせ、割いたのは稲田くん。稲田くんは「7人の、神?」と声を荒げたらしい。むしろ素顔だ、僕はそう思った。

 多少なり気を遣う場で、これだ。稲田くんがブッチョと呼ばれるのも納得だ。きっと眉毛は、ぶっちょう面に相応しく、ひん曲がっていただろう。

 稲田くんは、さらに言葉を続けた。

「七人の神が、米粒の数だけいるなんて、本当にそうなら米を食うべきじゃない!」

 そのときの状況を伝聞してくれる稲田くんの声にも、力がこもっていた。現場では皿の一枚や二枚割れていたことだろう。甥はキョトンとしていたらしい。

「仁志(稲田くんの名前)よ。あのなあ、そんなんじゃ嫁も来てくんねえで」

 婆ちゃんがポロリと言ったらしい。

「嫁がどうとか、今は関係ないだろ。演繹法もできないのか? 米には神がいるのかって話だろ!」

 この発言に、母は涙をポロリとしていたことだろう。

 さらに稲田くんの怒号は続いた、「そもそも、どうやって神を米に閉じ込めた? 神を、閉じ込められる存在? 神の神とは、トールのことか?」

 知らんがな、例えであって、誰も神の話なんかあしちゃいない。でも誰も、稲田くんを止めなかったらしい。面倒だったのだろう。だから稲田くん自身、自分が何を間違っているのか、まだ理解しかねているようだ。僕に一連の話をし終えたあとも「俺、悪くないよな」と詰め寄ってくる始末だ。

 ぶっちょう面で無愛想でブッチョというあだ名の稲田くんが社会に出て、部長あたりに昇進した日には、とんでもなく面倒くさそうだ。それでもなんだか、米の例えに噛み付いて、家族に一杯食わそうなんて人間を、僕はどうしても憎めない。

 

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おわりっ