鮭の子漫画

惰性の漫画と日記を書くの

体力無限質量変換装置機付きの田中くん

 将棋クラブの田中くん。盤上よりも校庭で活躍していた。

 100メートル走はそこそこでしかないが、200メートル走では途端に学年1位。1500メートル走や5分間走では、市の中体連記録に保存されていたレコードをぶっちぎって上書いた。

 全国のどの市町村で記録されているタイムをも圧倒した結果で、全国大会で脚光を浴びることを、我々同級生たちは期待した。当時、僕らの地域のポケモンカードは売り上げ半減していたらしいし、パズドラの売り上げも異様に落ちていたと聞いている。その頃の我々は、田中くんへの期待だけでいっぱいいっぱいであり、子供騙しの遊戯なんぞに神経を割いている場合ではなかった。

 なのではあるが、速すぎて他国から危険視されるレベルだと判断した先生方が気を利かせた。県大会ではわざとタイムを落として走るよう、田中くんを説得。田中くんが目立たないよう配慮される、いわゆる「田中隠匿」が初めて発動した。

 事実、無邪気に全力を出してしまった市の大会では、「記録の入力ミスがある」という指摘が教育委員会に今でも届き続けている。

 それもそうなのだ。中学生記録どころか、ワールドレコードを上書く速さを、田中くんは長距離走において出せるのだ。早い人間が日本にいたどころの話ではない。成長期をバリバリに控えさせた中学生が、アフリカの大地を駆け巡って育ったエリートなバネと肺を持つ歴代の大人に勝っているというのだから、CNNが大規模に特集を組むほどのニュースだ。

 だって、常人ではありえないのだ。ボルトとメッシで子供を作ったとしてもありえないのだ。

 なぜそんな記録を、日本の片田舎に住む中学生が出せるのか。

 そう、田中くんは、体力が無限なのだ。

 田中くん側の原理としては、田中くんは自身の質量をたった0.001g消費するだけで、爆発的なエネルギーを生み出している。聡明な方々はご存知と思うが、質量とエネルギー量は等価性がある。かつて広島や長崎に落とされた原爆の仕組みとしては、0.7gのウランが核分裂しただけで、あれだけの爆発が起こっている。

 そんなわけで田中くんも、超微細に体重を消費するだけで爆発的な体力を生み出せている。厳密には、微細な量の飲食物を腸で無に還すことが可能かようで、それがエネルギーに等価され体力として使われているようだ。

 まあ、原理の話はよいのだ。田中くんの今後が重要だ。

 体力が無限であるゆえ、肉体労働はお手の物らしい。だが、身体がついていくかは別問題のようで、長年酷使された膝軟骨が最近悲鳴をあげているようだ。

 それに、肉体労働よりもオフィスワーカーの方が、合コンでモテる事実。

 かつて秀でた運動能力によって校内のモテをかっさらっていた田中くんからすれば、モテないのは死と同義。あくまで会社員として、運動面は社会人サークルで見せつけているらしい。

 普通、こんな爆発的体力を生み出せるのであれば、皆に吹聴する。目立ちたいがゆえ、何かで記録をぶち立てたくなる。でも、田中くんが聖者の如く謙虚なおかげで、この特異体質は世間にバレず「お、社会人になってからも普段から体力作りしてるのか」と思われる程度に済んでいる。

 もし、どこかの機関に我が市の記録が見つかり、田中くんの秘密に気づかれたらと思うと僕は夜も眠れない。

 一方で、田中くんの秘密を僕が握っているとも言える。大人の分別を身につけた今の田中くんも、夜は眠れていないんじゃないだろうか。

 僕がこの後どう動いて、一国を制するに至ったかはまた別のお話。

 

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おわりっ